アキナイガーデンスタジオ

vol.15 梅村陽一郎さん・神永侑子さん自分も周りも豊かに

YAMAVICO HAUS実験の「場」が横浜市の弘明寺にオープンした。ショップ・ギャラリー・オフィスを備えたこの場所のテーマは「mosaic park(モザイクパーク)」。銭湯をイメージしたキャッチーな空間を設計デザインしたのが、今回快くインタビューに応じでくださったアキナイガーデンスタジオのお二人。

弘明寺を拠点に建築家ユニットとして活動される梅村さんと神永さんご夫妻はそれぞれの仕事に加えて、アキナイガーデンスタジオとして関わるプロジェクト、シェアショップの運営、さらに昨年夏からは子育ても始まり、日常はかなり多忙なはず。

それにもかかわらず、いつお会いしても自然体で“らしさ”を見失うことなく、アクティブに活動されているその秘訣は何なのか、お話を伺った。

場所はアキナイガーデン。お二人が設計し、運営するシェアショップ。同マンションの3階には同じく設計デザインを手がけた住居がある。

―今回、YAMAVICO HAUS新店舗の設計デザインを担当して、よかったこと、大変だったことなどありますか?

神永さん:
YAMAVICO HAUSさんから連絡をもらった時はすごく嬉しかったです。私たちのことを知ってくれていて、せっかく弘明寺でやるんだったらお願いしたい、という背景で連絡してくださったので純粋にいいものを作りたいなあ、って思いました。

よかったことは、ざっくばらんなヒアリングの機会を設けさせてもらえたことですね。「初めまして」の遠慮のある関係から早く打ち解けて、フラットな関係づくりができたことがよかったし、今後も大事にしたいこととして気づきにもなりました。

梅村さん:
デザインは二人で考えているんですけど、図面を書くのは自分が担当していて、個人的にはジャングルシェルフの図面書くのは割と大変でした(笑)

最終的な「mosaic park」というテーマと設計は気に入っています。

施工現場も自宅から近く、ふらっと確認に来るお二人

―今回のプロジェクト以外にもアキナイガーデンや住居をはじめ、写真スタジオ、シェアハウスなど、弘明寺にはお二人が携わった空間が随所にあります。拠点を移してから4年の歳月を経て見えてきた、お二人の理想の仕事とはどのようなものなのでしょうか。

梅村さん:
今回のYAMAVICO HAUSさんのように感覚の近い人との仕事は理想ですね。ただ設計を受注するだけではなく、人と人との繋がりの中で仕事をしていきたい。

自分で設計から運営までする場を持つことで、それが実現しやすくなるようには感じています。その場に集まってくる人は同じ感覚を持った人が多いので、その先に設計の仕事が生まれたときも自然といい仕事ができます。

神永さん:
わたしたちと同じように設計だけでなく運営もやっている知り合いの建築家の方が、「子育てとしても親が会社に行って稼いで帰ってくるという背中の見せ方じゃなくて、いろんな人とコミュニケーションをとりながら生きている、という様子を見せられるのはいいことじゃないか」と言っていて、それは本当にそうだなと思っています。

梅村さん:
アキナイガーデンの出店者の方が自分たちの親より会っているよね、この子(笑)

―実は途中からインタビューに同席してくれたまだ0歳の息子さん。商い暮らしは子育てにもいい刺激のある暮らしになっているようです。お子さんが生まれて変わったことはありますか?

神永さん:
今新しく作ろうと考えている場所があって、そこは子どもの環境をテーマにする予定です。最近キーワードになっているのは「福祉未満」という言葉なんですけど、暮らしや、子育てを通しての困りごととかを、自治体に頼ろうとするとちょっと重たいな、ということも、その手前でもっとみんなで助け合えることあるんじゃないかという考え方で。それができたらいいなと思っています。

これは子どもが生まれる前からですが、今作ろうとしている場所も、アキナイガーデンも自分たちの身の回りにあったらいいなと思うものとか、ちょっと暮らしが豊かになりそうだな、楽しくなりそうだな、と思うものを作ろうと動いています。そしてそれを自分たちだけでなくて人と共有することで周りの人たちも一緒に幸せになってくれたら嬉しいし、私たちも広がりを楽しめたらいいなと。
それに、自分とか2人とかでできることは限界が必ずあって、それだったら共同して自分たちだけじゃ達成できないことにチャレンジしていく方が楽しいなとも思っています。

―お二人の豊かさを中心にそれが周りにも広がっていくイメージができます。弘明寺という街はお二人にとってどのような場所ですか?

梅村さん:
初めて来たときから変わらず悪い人もいないし、いい街。スーパーもコンビニも酒屋もあって、保育園も近くて、子育ても含めて暮らしやすいです。

ただ、若い人たちが遊べるお店が少ないのも現状。若い世代の人はたくさん住んでいるので、休日に大きい駅にでるのではなく、弘明寺に来る、みたいな状況を目指したいですね。

自分たちもせっかく住むなら楽しい方がいいので、面白いことをやっている人を増やしたり、いろんなチャレンジをしています。それでも弘明寺は歴史ある街ということもあって、中々ガラッとは変わらない。逆にそういうのには結構やる気が出ますね。どんだけやったら変わるのみたいな。変わらなさすぎると燃えるタイプなんです。弘明寺は変えてみたい。

神永さん:
弘明寺は私たちにとって絶妙ですね。下手したら影響を与えられるかもしれないって感じられるスケール感というか。だから余計変えてみたいとか、なにかやりたいみたいな欲が湧いてくるというのはあるかもしれないです。

わたしは人生をなんとなく10 年単位で見ていて、20 代は建築の設計をひたすらにやってきました。これから30 代、40 代、50 代、と考えたときに30 代の間は弘明寺とかアキナイガーデンでやっていくことがメインになってくるだろうなと思っています。案外10 年で何かをやり遂げようと思うと結構すぐ動かないといけなくて、日々気づいたことに対してのアクションみたいなのは、割と早めにやってみて、それでもし物事がうまく進まなかったら、時期早々だったか、今回はちょっと違ったか、とかそういう見方をして進んでいるかもしれないですね。初動は二人ともOKだったらGOです。

―弘明寺はお二人の意欲を後押しするような街ですね。改めてお二人にとって仕事と暮らしが入り混じる商い暮らしとはどんなものですか?

神永さん:
働くことと生活が完全に分類してるみたいなのが、それまでの生き方だったんですけど、商い暮らしが始まってそれがもう少し近づいてくると、仕事自体も暮らしの延長として楽しいし、やりがいあるみたいな状態が気持ち的にも継続的で無理がないし、いいなと思うようになりました。

梅村さん:
前働いてた事務所でアーティストのギャラリーを作る仕事を担当したんですけど、その時に2階をシェアハウスにすることになって、自分もそのアーティストと一緒にそこに住んでいたんです。ギャラリーでイベントをやったりもして、それは楽しかった。その仕事から生活と仕事の境目が曖昧になったかもしれないですね。

今は趣味と仕事の境も曖昧です。好きなことがいっぱいあるのはいいんですけど、好きなことは仕事にしたいので、、趣味がないです。

神永さん:
生きることが趣味だね。(笑)
人生の大半の時間は仕事に費やすわけで、その時間を何に費やすかみたいなことですよね。だったら好きなことやりたいな、と思います。

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いつも自然体でアクティブなお二人はとてもシンプルに生きていました。いい意味で特別なわけではなく、自分たちの心地よさ、欲求にとても素直に従い、行動していること。もちろん全てが思い通りにいくわけじゃなくともその中に面白さを見出し、動き続け、チャンスは逃さない。多くの人が簡単そうで難しいと感じていることではないでしょうか。それを当たり前にやってのけることがお二人のすごさなのだと思います。

きっとこれから先もたくさんの人を巻き込みながら豊かで楽しい暮らしを築いていかれるのだろうと想像すると、私自身もそこに巻き込まれる楽しみを感じずにはいられません。こうして、ひとり、またひとりとお二人に魅了されていくのでしょう。

photo & text :KARIN SAKATA

梅村陽一郎・神永侑子

2018年に建築家ユニットとしてアキナイガーデン・スタジオを設立。2019年に自宅と同マンションの1階に商い
暮らしをテーマにしたシェアショップ、アキナイガーデンをオープン。現在は約10組の出店者と共に商い暮らし
を実験中。2022年に第一子が誕生し、子育てにも日々奮闘している。

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