さわのめぐみさん

vol.10 さわのめぐみさん「誰かのため」は「自分のため」

ものがたり食堂という、なかなか予約のとれないイベントがある。その中では、誰もが知っているような物語(例えば「人魚姫」や「美女と野獣」など)を題材にした、さわのめぐみさんのつくるコース料理が『美味しい読書感想文』として提供されるそうだ。

そのさわのさんが、絵本を出版されたとのことで、取材に伺った。
大抵、この種の取材は、ご本人の下調べを入念に行う筈なのだけど、大変失礼ながら、絵本を読むことと、最低限の情報をWEBで調べる以外は殆ど無知のままインタビューに臨んだ。
自分の好きな世界観であることはわかっていたので、純粋に先入観なしでお話を聞いてみたいと言うか、わくわく感を大切にしたいというのが近い気持ちかもしれない。
映画を観る前にネタバレを防いで、ニュートラルな状態にしておく感じ。

鎌倉の海辺、材木座に彼女のお店「Nami Zaimokuza」がある。

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―絵本を出されたきっかけは何だったのでしょう?

元々料理の個展を考えていたのがコロナ禍で開催できなくなってしまって。それを、料理じゃないところに向けたのが絵本だったのかもしれません。
個展みたいに「来てもらう」ものではなくて「自分から届けられるもの」が良いなって。常に何かをつくり続けている人間なので、止まってしまうことがストレスでした。

昔から夢日記を書き溜めていて。それらを特に発表しようとは思っていなかったのですが、ある時、イラストレーターの中村まふねさんにカフェでお会いする機会があって、彼女の絵を見ていたら、“わわわ”って夢の物語が繋がってきたんです。頭の中をテキストで書き出したものが、急に色味を帯びて具現化すると言うか。それで「一緒にやりませんか」ってすぐにお願いしました。最初は挿絵だけをお願いしたいと思っていたんですが、私の渡したものに対して「絵本にしたい」と彼女が言ってくれて。

元々友人関係だった「ニジノ絵本屋」のいしいあやさんには、編集で入ってもらいました。
すごく良いメンバーで仕事ができたなって思える作品ですね。

―すごい行動力ですね。

でも、いざやってみると、絵本づくりって行程が多くて、こんなに大変なんだ?って思いました。

絵本 種をあつめる少年
銅版画をベースに制作された絵本

―表紙のくりぬき、良いアイデアだと思います。めくりたくなる。

古書っぽいのは、銅版のスレの跡を生かしています。銅版画は一度彫ってしまうと直せないので、作家さんとデザイナーさんは特に大変だったと思います。

―絵本に登場するレストランの女性は、さわのさんご自身だと思うのですが、少年は実在するのでしょうか?

「坊っちゃん」は、空想上の友達で。千と千尋の神隠しの「ハク」みたいな、少年だけど龍になるみたいな、そんなイメージがありました。神様が人間の体を借りているって昔からあるじゃないですか。
パーンというギリシャ神話に登場する豊穣の神様もモチーフになっていたり、実は色々隠れているんです。

―絵本って、語り過ぎちゃうとよくないですよね。

それもありますが、わかる人しかわからないようにあえて作っているところもあります。
読み解いて、気付いてもらうのが嬉しいです。

―種を集めてらっしゃるということが書いてあったんですけど、それは今も?

集めています。干して乾燥させて。今の植物の種って、品種改良されて2世ができないようになっているものが多くて。種があっても、全く同じものができるとは限らない。
種ってどういう形かわかりますか?植物の種を並べて「これはなんの種でしょう?」って聞くと意外とみんなわからないんです。身近なことなのに知らないことっていっぱいある。
見たことはあるけど、そこまで意識したこともない。そういうところも見てもらいたいなって。絵本の中でも、種を集めて、空に蒔いて星にして、星が降ることで大地に降り注いで、そこから植物が生まれる。という循環のストーリーが描かれています。

―今回の本が最初の作品になるのでしょうか?

「わかったさん」「こまったさん」のお仕事があったのですが、それは料理の監修でした。

―小学生の頃、図書室で読んでました。懐かしい!

よくご存知ですね!その仕事の依頼が来たとき、嬉し過ぎて旦那に言ったら「なにそれ?」って言われて。同年代の女性はみんな知ってる。みんなが好きだった児童書と言うか。

絵本の原画
絵本の原画の中の1枚。

―料理は、全部お一人で?

営業中はお皿洗いとか手伝ってもらっていますが、それ以外は一人です。仕込みも全部。
自分のリズムもちゃんとできないから、人に合わせるのが苦手なのかもしれません。

独立して今年8年目になるのですが、最初の頃はフードスタイリング・コーディネートなどのクライアントワークとか何でもやっていて、たくさんスタッフもいました。
でも、本当はこういうふうにしたいのに。こう見せたいのにということがある中で、ディレクションする人がいるなら私じゃなくてもできるんじゃないか?と感じることがあって。

それで、やりたいことしかやらないと決めてから、生きやすくなりました。
自分が作るものだけを目指してお客さんが来てくれる環境ができた。それこそ絵を買ってくれる、写真を買ってくれるように、作品を食べに来てくれるという感覚かなと思っています。フードインスタレーション。食べると消えてしまいますけどね。

時間をかけてつくった料理がすぐに消えて無くなるのも気持ち良くて。
建築もそうですが、完成した後の朽ちてゆく姿を美しく感じるとか、そういう感覚が好きです。「食べるのが勿体ない」と言われるのも嬉しいけど、それを言った本人が美味しそうに食べて料理が消えてゆく様子も面白いなと感じます。

―クライアントがいると、クライアントが見せたいものがありますからね。

すごくいろんなことさせてもらって勉強になったので、今の私があると思っています。
そういうお仕事もたまにやりたいですけどね。楽しいので。絵本作りの時のように、スポットスポットでチームを作っていくのも良いかなと。

Nami Zaimokuza
外からの逆光が、水耕栽培のチューリップを照らしていて美しい。窓には和紙のようなフィルムが貼ってある。

―ここはお店として営業されているんでしょうか?

はい、「休日喫茶室」という名前で食事を出しています。完全予約制、完全抽選制です。以前は先着順だったんですが、2分くらいで席が埋まってしまうので、申し訳ないなと思って。
抽選にして、いろんなかたに来ていただけるようにしました。

―instagramやnoteを拝見したんですが、写真がすごく綺麗だなって思いました。あれはご自身で撮られているんですか?光の使い方を意識されているのかなって。洗練された独特の空気感が漂っていますね。

はい、自分で撮っています。勉強中ですけど。明るい写真って、私にとっては難しい。いろんなところに目が行ってしまって、気になるんですよね。暗くして撮ると見せたいものがフォーカスされて、気になる部分も目立たなくなる。美味しそうに撮るというよりは、絵画みたいに一つの作品として撮るということを意識しています。

普通は料理の写真って、照明を使って赤っぽく撮るのですが、私の場合は意図的に青を被せているんです。

ものがたり食堂

―写真を見た時に感じたことがわかりました。ご自身を常に分析されて客観的に見ながら作品として表現されているんですね。

あまり深く考えてないですけどね。感覚的に生きているところが大きいので。
ただ、こだわりはあります。例えばマフィンひとつでも抜かりない造形ってなかなか難しいので、美味しく、美しくできるまで繰り返しつくるというように。

―元々料理はお好きだったんですか?料理をやられてるかたって偏見かもしれないですけど、食べるのが好きっていう背景の人が多いのかなって思ってたんですけど、noteの記事で摂食障害を患われていた過去のお話を読んでびっくりしました。それで食の道に進むんだ?って。

両親が食堂を営んでいるので、何かしら美味しいものが必ずある環境でありがたみを感じずに育っていて。太ることが悪だと思っていた時期が長くありました。
それを克服するために、食を自分の手で作ることで安心感を得たんです。
制限するより、自分でコントロールできるようになりました。

今では食べるのが大好きですよ。恐怖を克服するために立ち向かったと言うと言い方は変ですけど、なんでここからインクが出てくるんだろう?ってボールペン分解するみたいに原因を分解して「何で太るとダメなの?」「好きなものを食べてカロリーをコントロールしよう」「食べなきゃいけないっていう精神的プレッシャーを無くそう」などと考えることで向き合いました。

季節のパフェ

―食って、「良いもの」っていうのを前提に語られることが多すぎるから、そもそも楽しくするってどうすれば良いんだろうって視点が抜け落ちている気もするんですよね。

それこそ、「わかったさん」「こまったさん」も楽しさを伝えるものですよね。子供の頃はテレビ番組の「ひとりでできるもん」にも影響を受けました。食べることよりもつくることが好きなのかもしれません。

誰かのために料理すると言うよりは、結局自分に戻ってくるんですよね。だから、自分のためにつくっているとも言える。人の笑顔が見たい、美味しいって言葉が聞きたい。プレゼントすることも大好きなんですけど、笑顔が見たい=自分のため。かもしれない。見返りを求めていると言えばそれまでなんですけど。ああ嬉しい、って思える瞬間が生き甲斐になっているのかなと思っています。

自分一人だとできないことってそれだと思っていて。
どんなに疲れていても誰かにご飯作って喜んでもらえると元気になる。料理に助けられているから、やっぱり自分は料理をやっておかないとなって思う。

―では、今のお仕事が天職ですね。

もう少し色々、絵本作ったり陶芸をやったり、と思っていたんですが、分散しているパワーを料理に向けるのも良いかなという考えに戻ってきました。どのクリエイティブが自分に合っているかわかってきたので。餅は餅屋。他のことは人に任せて、自分の得意なことを突き詰めていったらどうなるかを試したい。
どういうものがつくれるか日々考えています。いつも繰り返しなんです。満足いくものができて喜んでいても、次の日には凹んでいる自分がいたり。以前は他人と比べて凹んでましたけど、今は、敵は自分。日々バージョンアップしないといけない。怠けていたらそのぶん自分に返ってくるし。逆に、やった分だけ返ってくるのがわかっているから頑張れる。

さわのさん手作りのパフェ
手作りのパフェをいただく。苺、胡麻のアイス、緑色のスポンジはよもぎ。クリームは玄米茶。柚子や抹茶は香りの主張が強いため、敢えて使っていない和風パフェ。

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―あれも、これも、きっと誰かにとっては宝物―
果物や野菜の種は、宝物を詰め込んだ美味しいタイムカプセル。

取材をさせてもらって、絵本に書いてあったこの言葉の意味がわかったような気がする。描かれているのは壮大な物語のようで、実は根底にあるのは日常の中にある気づきや、大切なものの再発見だったりする。

帰りに、喫茶室の庭にある三角葉のミモザと、みかんをいただいた。
自宅に戻って早速みかんをいただくと、果肉にはたくさんの種が。
あ、やられた!と思う。
普段スーパーで売っているみかんが種無しだったことすら、意識していなかった自分に気づく。

これが本当の「お土産」。
新しい視点も一緒に持ち帰らせていただいた。
粋だなぁと思う。

photo & text :TSUKASA MIKAMI

さわのめぐみ

Food Director
家族全員が料理人という家庭で育ち、物心が着く頃には同じ料理の世界に。
2年間イタリアへ修行、帰国後、イタリア料理という枠から飛び出し様々な料理を楽しんでもらえるようお店を持たず、ケータリングという形で料理を提供している。ケータリングや『ものがたり食堂』を中心に活動。

 

となりのバトン