vol.08 勝股淳さんカタチにとらわれない暮らし

駅前から海岸線へとまっすぐ続く、道。
その上空をカタチの定まらない雲がのんびりと横切っていく。
人々の歩く速度やあらゆるものの間隔にこの土地独特の気流を感じます。

「あ、ここのパン屋さん美味しいんですよ。タマゴサンドが好きなんです」

柔らかな口調でそう語ってくれたのは、平塚市在住の勝股淳さん。ご自身が暮らす町を案内していただきながらお話を伺いました。まずは勝股さんのこと、読んでくださっているみなさんにどう説明したら良いでしょう。

「究極的に分かりにくい人だよね(笑)。仕事の比率で言うと、編集とかコンテンツディレクションみたいなものが多いです。でもまぁ、それも全体の40パーセントくらいかな」

ーまずはコンテンツディレクターとしての一面。その他の60パーセントも気になります。

「やってることをざっくり言うと、コンテンツディレクションの仕事と、僕が作っているギルずっていうWEB制作をするチームの仕事と、写真の仕事。この三つをぐるぐるしてるって感じですね」

ーWEBの仕事を中心に、コンテンツや写真などさまざまな媒体を通してクライアントの『伝えたいこと』を表現してるんですね。基本はフリーランスですか?

「そうですね。ギルずというWEB制作のチームは3人で始めました。それぞれわかりやすい職能があるわけではなかったけど、やってることの界隈が近かったのと、なんとなく温度感が似ていて」
それで意気投合を。

「“仕事ありき”と言うよりは、この3人でチームを作ったらどういうことができるのかって言う起点でした」

ー“仕事ありき”ではない起点。とても興味深いです。クリエイティブかつ実験的ですよね。

「たまたま3人ともWEBの界隈で仕事をしていたのもあって、友達づてに『WEBサイト作れる?』みたいな広がり方で始まっていきました。だから営業とか一切してないんですよ。コロナのタイミングでWEBサイトを作りたい人も多かったし相談も多くもらうようになっていて。今はコーディングができるメンバーが入って4人でやっています」

ー勝股さんはコンテンツディレクターでありながら、時にフォトグラファーでもあるんですよね。

「写真はもともと趣味で、続けていたら『撮ってくれない?』ってのがちょこちょこ出てきたって感じです」

ーそこも“仕事ありき”というよりは自然と仕事になっていった感覚でしょうか。

「WEBの仕事をやるようになってからはWEBサイトと写真がセットになることが多くて。WEBサイトって写真ですごく印象が決まっちゃう部分があるじゃないですか。だから、写真を撮れるなら撮って欲しい、という依頼が増えたんです。気がついたらなんだかんだ、月に1、2本、写真の仕事をやらせてもらってます」

ー仕事の生み出し方がとても自然。積極的に獲りに行くというよりも、柔軟に受け容れているようにもみえます。近くに仲間が多いようにも感じますが、勝股さんはもともと平塚出身ではないんですよね。

「千葉県出身です。東京に住んで、名古屋に2、3年いて、一瞬徳島にいて、今ここ。革作家の友達とずっと仲が良くて、彼が住む平塚によく遊びに来てたんです。油絵作家とか彫金作家とかいろんな人に出逢えて、ここに来るといつも面白いからよく遊びに来ていました。それがきっかけで平塚に。あ、ちなみにこの通りのローカルメディアを最近作ってるんですよ。『松風ストリート』っていうんですけど」

松風町。海に向かって松が立ち並び、今にも風の音が聞こえてきそうな町。
そんな松風ストリートに入ってすぐのところにある『ぶどう畑のさんぽ道』というレストランにふらりと立ち寄ると、店主の高梨さんを紹介してくれました。

「ここには週に3回くらい晩ご飯を食べにきていて。そしたら高梨さんから『このあたりのお店たちが繋がって、みんなにとって良いものみたいなものができないかなぁ』という話が最初あったんです。それがきっかけで、『松風ストリート』ていうローカルメディアを作ることになったんです」

ー高梨さんと近況を報告しあう姿からは、心地よい温度感が伝わってくる。その場にいるひとたちをもゆるりと会話に巻き込みながら新しいつながりも生まれている。あぁ、この町ではこうやって程よい速度と距離感で人と人が繋がっていくんだなぁ。勝股さんにとって松風町はどんな町?

「住みやすいですね。家賃も比較的安いし。今は仲間もたくさんいて、仕事も買い物も食事もここで全部完結できちゃいます」

ーなんて理想的。そもそもの目的としては今の状況を求めて平塚に暮らし始めたわけではないんですよね。

「そうですね、そもそもの目的ではなかったです。でも近所で買い物したり、ご飯食べたり、この辺の友達と遊びまわったりしてると人との関係値ってできてくるじゃないですか。それによって『あの人がこういうことをやりたいらしい』みたいなことを知るようになって、じゃあ作りましょうとか、じゃああの人を紹介しようとか、そういう流れに自然となっていったって感じですね」

変哲のない日常の積み重ねを誰と共有していくか。より多くの時間と言葉を生活圏内にいる人々と共有していくことで、心地いい暮らしと仕事が程近い距離感で叶っていくのかもしれません。

「割とシンプルですよね。自然に暮らしてたら自然とそうなるだけ、みたいな」

松風ストリートには素敵なお店がたくさんあります。どのお店も温かく私たちを迎えてくれました。美味しいごはん、おもしろい人、興味深いモノ。それらが全て、この町で生活している人々のために存在している。“生活をともに創っている”という潜在的なこの土地の風土がここに住まう人々の生活を支えているように感じます。

ーフォトグラファーとして勝股さんが撮影するものはどんなものが多いですか。

「風景が多いかな。撮ってるときは反射的で感覚的。だから撮ってる時は何も考えてないけど、結果的に見返すと自然物と人工物の合わさってるところが多い。僕にとっての人工っていう意味は、例えば『水平線』だったら『線』。直線とかって人間の形跡っぽいなと」

ー人間の形跡っておもしろい観点。仕業の痕跡は確かに人間の存在を感じますね。

「完全な自然の写真を撮りたいかっていうとそうじゃない。勝手な僕の解釈だけどアートって人が介入してるって意味だと思ってて。自然物だとアートじゃないけど、人が介入することでアートになる。その辺に関心がある。完全な自然じゃなくて、そこに人が介入してる様子」

ー人の存在。勝股さんの切り取る風景写真には人間らしい哲学的な問いが含まれているようにもみえます。

「写真においては自分のことをアーティストだとは思ってないんですよ。めちゃくちゃアーティスト的な活動に駆動するかっていうとこれから先もそれはない気がしてます。写真ってプリントじゃないですか。フットプリント。足跡。自分の足跡を見てると、自然と人工の重なりを追ってるな、とは思いますね」

ーこれだけ町に馴染んでいて、仲間もたくさんいて、平塚に定着しているようにみえるけど、今後また他の土地に移る可能性はあるのでしょうか。

「あるんじゃないですか。執着は人並みにあると思うんですけど、飽きるというよりも満足しちゃって次に行くってのはある気がする。何か可能性を感じたらそうするかも。他のプランの方が合理的かもしれないし、どんな可能性なのかはわからないけど、でも“直感”は蔑ろにしない方がいいかなと思ってます」

心が赴くという直感を信じ、流れ着いた土地土地で、そこに暮らす人々の趣きの中に暮らすこと。風の時代。カタチにとらわれない風のような生き方は思ったよりもシンプルに実現できるのかもしれない。

photo & text :akari komatsu

勝股淳

1987年生まれ、千葉県出身。
プランニングディレクター、PM、ウェブ制作、フォトグラファーとして活動。
神奈川県平塚市松風町の小さなメディア「松風ストリート」監督。