藤咲和也さん

vol.07 藤咲和也さん心が満たされる循環をつくる

年齢ってグラデーションだと思っている。例えば20歳になったから突然大人という生き物になるわけじゃなくて、日々段々と変化してゆくだけのもの。

革作家の藤咲和也さんと話をしていて、純粋な視点というものは、ずっと持ち続けられるんだと思った。子どもみたいな大人はよくいるけど、そうではなくて大人としての成熟や倫理観を持ってるんだけど、ピュアな心を持ち続けられる人。いや、そもそも大人って何なんだっけ?

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―藤咲さんとは、何度もお会いしてるんですが、真面目な話をしたことがなかったので、こういう機会に聞けるのは嬉しいです。まずは、今の仕事をされるきっかけになったことをお伺いしたいなと。学校を出て就職して……という道筋ではなく、いきなり革作家になるというのは、何か転機があったのではないかと思うんですけど。

大学卒業後の23歳くらいの頃に友達と3人でシェアハウスをしていて、そのうちの一人が趣味でバッグをつくっていたんです。彼に「やってみれば?」と言われたので、ポーチを手縫いで作ってみたんです。僕はデニムが好きで、岡山に行った時にデニムの生地だけ大量に買って持っていたので、それを素材に。ソフトバンクの携帯のショップの紙袋を型紙にして(笑)。それが、めちゃくちゃ面白かった。その後に、革とデニムのカードケースを作って、バッグもつくったんですけど、それでさらにハマって。

作業ミシン

―手を動かしてやってみた体験が大きかったのですね。

最初の印象は大きかったですね。その時に、友達がずーっと僕を褒めまくってくれたんです。それも、褒めようとして褒めているんじゃなくて、本気で思ってくれているというか。技術的な細かいことは言われなくて、「めちゃくちゃうまいなー」ってずっと横から言われ続けてつくっていたから、“すごく楽しい遊びだなと”いう感覚が刷り込まれて、未だにその当時の感覚があります。そのお陰で、今も楽しくやれてるんじゃないかと。

―なるほど。それは自己肯定感が上がる体験ですね。

バッグは最初つくるのに1ヶ月くらいかかったんですよ。自分では、バランス悪くて下手くそだなぁと思ったりしてたんですが、バッグをSNSにアップしたら、コメントがめちゃくちゃ来るし、そのやりとりも含め楽しかった。そうしてるうちに友達からも制作依頼されるようになって、材料費だけもらって完全フルオーダーみたいなのをやるようになったんです。
そのうちに、「これタダなの悪いわ」みたいに言ってくれる友達がいて、2,000円くらい上乗せして払ってもらったんですけど、「これでお金もらえるの?」と思って嬉しかった。バイトしてもらうお金とは質が違うなって感じたんです。それを繰り返しているうちに、だんだん上達していって。

情熱や好奇心は、技術以上に大切なこと。逆に言うとそれがベースになって、知識や経験が増えてゆくことで、よい良いものが生まれるのだと思います。ものづくりは、やっぱり楽しい!

バイトと言えば、当時渋谷の東急ハンズで働いていました。アクセサリー修理工房で。空いている時間は、自分の作品も制作させてもらってたんです。最初は怒られたけど(笑)。退職時に社長へ手づくりのバッグをプレゼントしたらすごく喜んでくれて。反抗もしたけど、やりたいことやっても大丈夫なんだなっていう感覚になった。

―僕もハンズの店員さんにはすごくお世話になってます。聞くと想像以上の答えが帰ってくる、みたいな。今では素敵なアトリエまで構えていらっしゃいますが、その後は順調だったんですね。

その後、F lineというブランドをはじめたお陰で、革作家として食えるようになりました。

※F line(エフライン):画家の大和田いずみさんがペイントした革を革作家の藤咲和也さんが縫製し、彫金作家の秋濱克大さんが羽のモチーフで装飾する。

秋濱さんとは、共通の友人を介して知り合いで、「かっこいい生き方してるなぁ」って思ってたんですけど、急に連絡が来て「うちのアトリエが半分空いたから使う?」って言われて。それがきっかけで平塚に来ました。その後、僕と秋濱さんがつくった青い財布をいずみさんが買いに来てくれて。「これペイントしてるの誰ですか?私にやらせてもらえないですか?」という流れでスタートしました。2人ともレベルが高いから、それに合わせなきゃっていうのがあって良い刺激になりましたね。

ただ、だんだん型にハマる感じがつまんなくなってくる感覚があった。本当は全部の工程を自分でやってみたいという思いもあって。
それにペースが早過ぎて。年2回の伊勢丹の展示で、ありがたいことにオーダーがいっぱいあるんですが、みんな気まぐれが良いところなのに、追われてどうするの?みたいな。今はユニットとしての活動は休止してるけど、皆仲良くて、一緒に展示をしたりしています。

―その後、独立と言うか、今に至るわけですね。

僕の人生全体の目標に「楽しく生きる」というのがあります。まずは楽しく思える仕事につくというのが手っ取り早いな、と。それをやり続けている感じです。

最近は、自然物にすごく惹かれます。予想外な発想を与えてくれる趣がある。特に磨いていないような石。

石からインスピレーションされた巾着

―この巾着も石がインスピレーション源なんですか?

はい。後から考えたら…という感じなんですけど。美しい形をつくろうと思って色々考えている中で石をふと見ると、既に完成されてる気がして。その現象含め面白いなと。生まれが茨城の田舎で、川遊びをずっとしていたので、元々自然が好きなんです。

ものづくりは人の手が入るものだけど、自然は手が入っていないもの。人間の心の動きとかも同じなんですけど、言葉にしづらいけど感じている大事な感覚みたいなものをアウトプットして、それを他人と共有できた時に喜びを感じるし、納得感がある。
それを通してその人の内面が深掘りされたり、かつその人の人生が前進するというのが嬉しい。それは狙ってできることではないと思うんです。

でも逆に、人工物・自然物って分けて考えるけど、人工物も、(隕石とか除いて)地球上の物質でできているんだよなって。ビルとかでさえ。実は大差ない、一緒なんじゃないかなって思うこともあります。

あと、元々丸っこいものに惹かれるんです。有機的なライン。今飼っている鳥も、亀もフォルムに惹かれてるのかも。可愛い感じと渋さが同時に入ってるというか。

ウズラのホーちゃん
ウズラのホーちゃん

―いつも使っているバッグは、自分に寄り添ってくれるアイテムになりますよね。レザーは経年変化で馴染んでくる。

バッグは「日常のファッション」というパワーがあるから、自分がテンション上がるし、人と繋がるアイテムでもある。目的としては、自分も相手もパワーアップすること。成長が大事。経年変化が「成長」なのかはわからないけど。

ポイントだなと思うのは、素材です。使っていてダメージを重ねてダサくなっていく素材は好きじゃなくて。木にしてもデニムにしても革にしても、傷がつくほどかっこよくなる素材。あとは真鍮・金・銀とかも。
時間が経ってかっこよくなった衝撃。デニムがいい感じに色褪せてる、履いた時の「おおっ」て感覚ありますよね。平坦な青じゃなくて、動きのある青。人が生きて動いていたことによって生まれた濃淡。人生を過ごすほど良い感じになれば、安心してガンガン使っていい。変化がワクワクするもの。かたやプラスチックとか、(用途によるかもしれないけど)傷がつくと使ってて嫌になるものもある。
良いものって、使えば使うほど良くなるんです。決して派手ではないし、衝撃は強く無いけど、ちゃんと思想があるもの。

藤咲さん愛用のグローブ

幼い頃から野球をやっていて、グローブが大好きだったんです。ずっとグローブをいじっていて。変化するけど硬い。自分の形に馴染む。かつ自然物でもある。素材のタフさ。壊れやすいものにはあまり惹かれないんです。

―最近は絵画とかも描いてらっしゃいますよね?

レザーでバッグつくっている人だけというのは嫌で、そこから出たいという気持ちがあって。敢えて革をやめてみることで突き抜けられる可能性を感じています。
現代アートとかはもっとコンセプチュアルだと思うんですけど。そういう考えも取り入れたいが、頭でっかちにはなりたくない。

―ものを作る人って、そういうバランスを常に考えていると思うんです。
革小物の場合、生活に寄り添うプロダクトであり作品でもある。陶芸とかも近いのかもしれません。表現欲とのバランスをみんなどうされてるんだろうなって。

空間を意識したり、今までの流れを汲みながらコンセプトを立てたり。アートの勉強もしていないし我流だから、周囲の話を聞いたりしながらなんですけど。用途を無視していたりとか、我儘な感じが入っていると面白いなって思う。そこに美しさを見出したりとか、哲学が入っているとか。用途が無い分思想が強まる。

アートワーク 羽と石

例えば、丸いものとシャープなもの。羽と石も、組み合わせることでどちらの良さも出るなと。

表現方法は変われど、結局本人が楽しく生きるのが一番大事。良いバイブスでいたら、相手にもプラスの流れが伝わる。そういうのが自然環境にも関わっていると思うんです。心が満たされていないから無駄なものを買ってしまう。無駄な製品を作るからゴミになったりする。良い流れができると、余計なものを作らず、買わず、という循環ができる。

―でも、無駄や余白がないと新しいものは生まれないというのはありますよね。

その過程では無駄も必要だとは思うんですけどね。自分がどうしたら心地良いかを探求し続けないと。自分が楽しむ核をつくると言うか、好きな素材、自分の中の高揚感を大事にしています。

「衝動で動かないと、人生って変化していかない」というのもあります。普段は(衝動買いとかの)衝動を抑えなきゃって思っちゃうんですけど、実はすごく良いことなんじゃないかなって。

―衝動や直感って今までの経験の蓄積だから、結構信頼できるんですよね。目の前の損得勘定じゃなく直感で、っていうのは大事なのかも。

単純に「やりたくなっちゃった」ということ。DIYで家の棚を作る、ビーチバレーやる、とか。人に合わせるんじゃなくて、自分がそう思うからやるって感覚を大事にしたいですね。

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星新一さんの作品に「服を着たゾウ」というお話がある。
催眠術をかけられたゾウが「人間とはなにか」わからなかったので、本を読んで勉強する。でも、逆に「人間とは何か」の質問に人間は答えられなかったのだ。

革作家としてのキャリアが成熟してきた藤咲さんは今、アートとは何か?を純粋な視点で考えている。表現者にとって、その質問をすることは恥ずかしいと思ってしまう人もいるだろうけど、その姿勢は知ったかぶりをしている大人よりも断然素敵だし、不意に真理を付くような言葉にハッとさせられる。
大人になると斜に構えたり、変化球を投げることで悦に入ることを覚えるけれど、
彼の投げる球は気持ち良いくらい、直球ストレートで「スパーン」と入ってくる。
野球少年だった彼の、不思議な突破力と説得力。

その人の作り出したものは、その人の一部であり分身なんだよな、と改めて思う。
それは手仕事のちからとか、愛とか呼ばれるものだ。

photo & text :TSUKASA MIKAMI

藤咲和也 / Kazuya Fujisaku

1988年生まれ、茨城県出身。小学生の頃野球のグローブで革のおもしろさに目覚め、大学卒業後に遊びで作った鞄で、ものづくりの楽しさに目覚める。その後2014年に平塚へ製作拠点を移し、本格的に革の作家としての活動を始める。バッグや革小物の製作とアート表現を行き来しながら活動している。

となりのバトン