日本野鳥の会 萩原さん

vol.14 萩原洋平さん“出会いかた”を提供したい

最近「バートウォッチング」という⾔葉をあまり聞かなくなったように思う。

⽇本野⿃の会の職員で、プライベートでも「⿃の観察会」というツアーを開催されている萩原さんの存在を知り、取材させていただけることになったので、率直に聞いてみた。

「バードウォッチング⾃体が⽬的じゃなくて、釣りやキャンプと⼀緒に⾃然観察するとか。最近は多くの若い⼦たちも興味持ってくれていますよ。僕⾃⾝もわざわざ⿃を⾒に⾏くというより、ついでに⾒ることが多いですね。⾒慣れてるスズメのドジな⼀⾯を発⾒して微笑ましいな、とか。楽しみ⽅は⼈それぞれ。詳しくないと楽しめないものではないです。」と、萩原さん。

⽇本野⿃の会とは、野⿃や⾃然の素晴らしさを伝えながら、⾃然と⼈間とが共存する豊かな社会の実現をめざして活動を続けている⾃然保護団体なのだそうだ。

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―開催されているツアーはどんなものなのですか?

⼦どものためのツアーが多いのですが、その場合あまり綿密なプランは⽴てず、⼦どもたちが興味持った場合は⻑めに時間とって、好奇⼼に合わせて時間配分を調整しているという感じです。

安全管理上、⾞の通りを考慮してコースは決めますが、あまり⾒慣れていないものをわーっと説明しても、詰め込んだだけの知識になってしまうので、⼦どもの気づきから拾い上げて、つながりのある部分を解説したりします。⼤⼈の観察会でも⼀緒なんですが、⾃分が⾒つけたんだ!っていう体験が⼤切かなと思っています。⾃分で感じて考えてもらうこと。

⿃の種類を解説することもあるんですけど、皆さん興味持ったら⾃分で調べてくので、
そうではない出会いの部分、「出会い⽅」を多く提供したいなって思ってるんです。

ユリカモメ(鶴岡⼋幡宮の池にて)
ユリカモメ(鶴岡⼋幡宮の池にて)

―「触発」を⼤切にされてるんでね。今の⼦は⾃然離れが進んでいると思いますか?

⾃分が⼦どもの頃は、ダメだって⾔われても川で遊んでたりしてたんですけど、今の⼦たちは違いますね。外で遊びにくくなっている環境や、遊び⾃体が変わっちゃった部分もあるとは思うけど。

⼦どもたちに「⾃然ってどういう存在?」って聞くと「守るもの」って返ってくるんです。
僕らのときって⾃然は「遊び相⼿」だった。知識はあるんだけど、体験が伴っていないから距離があるなと。学校では、⾃然のことを扱う機会が多くなってると思うんですけど、勉強だけだと逆効果かなとも感じていて。

ユリカモメ(⽇本野⿃の会提供)
ユリカモメ(萩原さん提供)

―今のお仕事に就かれたきっかけを教えてください。

育ちが藤沢で、元々生き物が好きな⼦どもだったんです。自転車に乗ってカブトムシやクワガタを採りに⾏ってましたね。通学路にはカニがいたりして。
カニを追いかけて学校に遅刻したり(笑)⾃分の⽣活圏でいろんなことが起きていました。

釣り好きな⽗親と3歳くらいから一緒に釣りをしていました。そこから⿃に興味を持ったのが⼩学校5年⽣のとき。叔⺟の家が⼋ヶ岳にあって、徒歩10分くらいのところに渓流がありました。
1⼈でイワナ釣りに⾏ったとき、はじめて⾒たことない⿃に(今思うと)めちゃくちゃ威嚇されたんです。ものすごい鮮やかなオレンジ⾊の⿃で。これなに?って思って、図鑑を買ってもらって調べたら、キビタキという鳥だったんです。それが最初でした。

キビタキ(萩原さん提供)

ブランコの上の木で寝ていたゴマダラ模様のお腹をした⿃が、アオバズクってフクロウだったこと。⾍の頭だけ残っていた光景も、アオバズクが⾷べた痕跡だったこと。幼稚園の帰り道に電線にとまった、オレンジ⾊のくちばしをした⿃のことが記憶に残っていて、それがムクドリだったんだ!とか。

図鑑で調べていくと、いろんなものがつながりました。

⽗が獣医師だったこともあり、動物に触れることも多かったです。食用の牛を⾒学に⾏って「ああ、⾷べるってこういうことだよな」と、そこでも動物や⼈間、⾃然とのつながりを意識するようになりました。

現代では、⾃然と⼈が切り離されてしまっているような感じがして。
それをつなげたいなと思うようになったんです。

日本野鳥の会 萩原さん

釣りがきっかけですが、⾃然保護に興味を持ったのもその頃です。
夏の旅⾏で見た川がすごく綺麗で。でも家の前の川がすごく汚くて。
どうしてこんなに汚れているのだろう?⼈のせいなのかなぁと思い、
⼩学校6年⽣の卒業⽂集で「僕と釣りと⾃然」を書きました。

中学校2年生の頃、友人と相模川で釣りをしていると、知らないおじさんに「何が釣れるの?」って聞かれたんです。何人か大人が集まって⿃の観察会をしていたようですが、僕たちが釣りをしていたからか⿃が全然いなくてブーイング状態だったそうです(笑)。
その時話しかけてくれた彼が、なんとなく僕がやりたかったことをされていて、
その出会いをきっかけに仲良くなり、彼らの活動にも参加するようになりました。

⾼校を卒業後は企業に就職しましたが、⼦どもと⾃然をつなげる仕事がしたいと思い、彼の紹介で学童保育に就職しました。その後、保育⼠の資格を取るために学校へ⾏き直して、5年ほど保育⼠をしていました。

保育⼠を辞めて、野⿃の会に⼊ったのも彼の縁なんです。
僕は運で⽣きてるみたいなものですね(笑)

鶴岡⼋幡宮 平家池

鶴岡⼋幡宮の敷地内にて、野⿃観察をしながら、さらにお話を伺う。

意識をしていないので、気づかないことが多いのですが、この池は意外とカワセミとか居ますよ。
あと、⿃を⾒ていると池の⽣き物の種類もわかるんです。カワセミが飲み込めるサイズの⿂が決まっているので、それくらいの⿂がいて⾃然繁殖ができているんだなとか。カワセミが⼦育てするために、いわば横⽳式住居を⼟の斜⾯につくるのですが、毎年同じ場所だと蛇に匂いでバレてしまうので、ちょこちょこ位置を変えていたり。

⽣き物って、環境の境⽬にいることが多いんです。
川が流れていると、川⾃体が境⽬を作り出していて、そのあたりを重点的に観察するといろんなものが⾒えたりします。

カワセミ(萩原さん提供)

―どんどんつながりが⾒えてくる。カワセミを観察しているだけで、そんなに広がりがあるんですね。

⾒⽅が変わりますよね。視点が違うと、全然違った⾵景に⾒える。そこに居る⻩⾊い⽻の⿃はカワラヒワ。スズメと同じように太いくちばしを、ペンチみたいに使ってタネを潰して⾷べることができるんです。タイミングが合うと、コゲラやアオゲラっていうキツツキや、夜にはフクロウもいます。

フクロウの⽻⾳がしない特性は、新幹線のパンタグラフ(集電装置)に応⽤されたりしてるんですよ。蜂のハニカム構造も有名ですよね。最近では、蚕の⽷を⼿術の⽷として使っていたり。蜘蛛の⽷も、あの細さであの強度は最強らしく、盛んに研究されています。

蜘蛛は⾃分の家を⾃分でつくっちゃうからすごいですよね。
⾃然界の仕組みを応⽤してつくられているものに注⽬すると、また新しい発⾒がありそう。

家の近くを散歩しながら、痕跡を探っていくのも⾯⽩いですよ!フンとか、意識して⾒ていると⿃の正体がわかります。⾒れば⾒てるほど、気づきがあります。鳴き声にもチャンネルがあるので、慣れてくると、今まで聞こえてこなかった鳥の様々な声も、聞こえてくるようになります。

鶴岡⼋幡宮で野鳥観察

―あの⿃たちはなんですか?

ヤマガラ、シジュウカラ、メジロ。混群っていうんですけど、餌をとる場所がバッティングしない種類で、⼀緒の群れになるんです。セットでいることで外敵に気づきやすいメリットもあるようです。

あ、コゲラってキツツキの開けた⽳がありますね。メジロが蜜吸ってますね。シジュウカラがつぼみを削りながら⾷べていたり、エナガもいますね。

梅や桜が咲くと、ヒヨドリやメジロが蜜を舐めに集まります。舌の先が絵筆みたいにケバケバしていて、蜜をからめとるのに適しているんです。スズメは花の根元をつまんで、ガムみたいに噛んで捨てています。桜の花が綺麗なまま落ちているのは、スズメが⾷べたあとだったりしますよ。

シジュウカラ(⽇本野⿃の会提供)
シジュウカラ(萩原さん提供)

すごく楽しかったです。観察会、また是⾮参加させてください。

はい、是⾮。今度は⿃だけじゃなくて、お寺に使われている素材や⽂化的背景も絡めて、
「⾃然と⽂化の繋がり」って切り⼝でも、観察会やってみたいなって思ってます。

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今回、思わぬ副産物があった。

取材のために双眼鏡を購⼊してみたのだけど、このアナログな道具で(失礼)
こんなにも感動があるとは…と驚いている。
それは、萩原さんと⼀緒に⾃然観察して得られた「気づき」だけでなくて
⽇常的に⾒ていたものがマクロ観察できる喜び。いつも通っている道に⽣えている草⽊や、美術館に展⽰している⼯芸品まで、顕微鏡で覗くように細かい部分が鮮明に⾒えてくる。⽐喩じゃなくて、物理的な「あたらしい視点」も獲得した。

都会で双眼鏡覗きながら歩くのは、かなり怪しいけれど。

photo & text :TSUKASA MIKAMI

萩原洋平

藤沢で⼩学校1年⽣から⾝近な海で遊びながら育った。⾼校を卒業後、企業に就職するも⾝近な⾃然環境と⼦どもたちを繋げたいとの思いが強くなり保育⼠資格を取得。その後5年間保育⼠として働いた後、2002 年より(公財)⽇本野⿃の会へ⼊局。プライベートでは趣味の1つの釣りを楽しんだり、親⼦を対象とした観察会や⾏きつけの酒屋で常連客を相⼿に緩い⾃然観察会を⾏ったりしている。

となりのバトン