ああ、この人はモテるだろうな。初めてお会いして、直感的にそう思った。
異性にモテるとか、恋愛どうのということではなくて、老若男女問わず人が自然と寄ってくる。そういう感じ。
因みに「モテる」は江戸時代から使われている言葉で、「持てる」が語源とされている。「支持される・支えられる」から派生し、現在使われる「もてはやされる」という意味になったそうだ。
“中心で笑っていて、周囲が思わず助けたくなる”
というのは、僕の思う理想のリーダー像であるし、憧れもある。
(ヒエラルキーの明確なトップダウンの組織は、どんどん時代に合わなくなってきている。)
でも、そんなリーダーになるには、何か秘訣があるのだろうか?
ビジョンがあること。フェアな姿勢があること。屈託ない笑顔や軽快な口調…いや、それだけではない筈だ。
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―鰹節を使った出汁の「NICATA」、服のブランド「urself」という、
全く違うジャンルのディレクターを兼任されている海瀬さんですが、なぜそのような経緯になったのでしょう?
大学出て、すぐに就職はしなかったんです。学生の時から建設業のアルバイトをしていて、そのまま建築の仕事をしていたんですけど、「せっかく大学出たんだからちゃんと会社員になったほうがいいぞ」と親方に言われて。
元々雑誌好きだったし…というのもあり入ったのが神楽坂の印刷会社で、25歳くらいまで働いていました。
その時よく遊んでた友達が、アパレルのOEM(生産)をやっている会社に居たんですけど、「うちに来ない?」って誘われて。印刷会社では、ファッション誌や音楽雑誌とかも刷ってたんですが、ちょうど原宿ブランドブーム*で、アパレルで働いている仲間がその雑誌に出始めたりしていたんです。
「雑誌を刷ってるよりは、刷られる側になりたいなと思い始めて、勢いで誘いに乗って転職したんですよ(笑)」
そこでは、いろんな原宿ブランド(APEやUNDERCOVERとか)の下請け生産をやっていました。
※1990年代半ば~2000年代にかけて原宿の裏側に店を構えたストリートブランドから発信されたファッションが流行となり、購入のために大行列ができるなどの社会現象となった。
そこで3年働いて、28〜9歳で、自身のブランド「Name.」を立ち上げることになります。
最初はシェアオフィスみたいなところで働いていたんですが、なんとかブランドだけで食えるようになってきたので、そこを抜けて、お店(直営店兼事務所)を構えたんです。
当時、僕ら規模のブランドで、いきなり直営店なんてどこもやってなくて、周囲からは「絶対売れないでしょ」と言われた。
近所のおじいちゃんとかが冷やかしに来るんです。「お前のところのシャツ、買ってやるけどなんでこんなに高いんだ?」なんて言われながら、なんとか続けてたんですけど、そのうちみんなが面白がってくれるようになったんです。スタイリストさんや芸能人が来てくれるようになって、売り上げが上がり認知もされてきて、気付いたら良いポジションまで来ていました。
東京デザインアワードという、いわゆる“東コレ(東京コレクション)支援”に応募してみたんですよ。そうしたら、賞をいただけて。東コレにも、僕が社長をやっていた時で4シーズンくらい参加しました。パリで展示会をやったりして、海外の卸先も増えて順調でした。
でも、会社を立ち上げるときに「10年で辞めよう」と決めていたので、「みんなに任せるわ」と言って引退して、今に至ります。
―なぜ「10年で辞める」と決めていたのですか?
バトンを渡していく感覚が良いかなって。すごく、みんなに「もったいない」って言われたんですけど。もともと流行に疎い中年の僕が、若い人のカルチャーや流行を追いかけて、一生懸命学ぶのも無理があるかなって。わからないことが増えてくると不安にもなるし。シーンで旗を振るのはもう終わりかなと。ヨーロッパのブランドみたいに、中の人たちが変わっていくのも良いかなと。
今も服は作ってるんですけどね。「urself」というブランドを個人でやっていて。
展示会もやらないし、卸もやらない。自分の作りたいものを不定期でつくっています。
卸先に3枚売るのと自分たちで1枚売る利益が同じであれば、自分たちでプロパー(正規価格)で売ればそんなに数量を作らなくても良い。欲しい人が居てくれたら成立するのかなと。人と同じやり方をしてても、人と同じようにしかならないし。
―そこから、鰹節のお仕事を開始されるわけですね?
次に何やろうかな〜って思っていたことの一つが鰹節だったんです。中学・高校と一緒だった幼馴染が居て、よく2人で東京で買い物とかしていたんです。たぶん、僕よりも服が好きだったんじゃないかな。でも彼は家業を継がなきゃいけなかった。実家が元禄時代から鰹節作っていて。
一緒に飲んでたりすると、ファッションの仕事をしている僕をすごく羨ましいと言うんですが、僕からしてみれば鰹節作ってる方がかっこいいんだけどなって思っていて、「会社辞めるから鰹節やらせてくれない?」って伝えたら「またまた〜冗談を!」って感じだったんすけど、「いや、本気だから」って。そこから鰹節の事業がスタートしました。
製造元と販売元という形で別々の会社だけど、パートナーとしてやってます。
当時、料亭やホテル系に卸してるだけで商品として販売してなかったので、アレンジしてニンニクチップ入れたり、紫蘇や青唐辛子を入れたり、新しくパッケージもデザインして売り始めた感じですね。
―デザインが洗練されていて流石ですね。
鰹節だからって鰹の絵を描かなきゃいけないわけじゃない。
ものの見方を変えるだけで全然面白いのに、固定観念に囚われちゃうとつまらない。
これはこれって決めちゃうやり方が好きじゃなかったんで。
美味しい、安心、安全とかって大前提なので、いちいちそれを言う理由ってないのかなと。
モノを見る角度を変えて、カッコいいな、欲しいなって思わせたら勝ち。
―商品のコンセプトもキャンプだったり山だったりと関連していますよね?
アウトドアギア(アウトドア道具)をイメージして洗練されたイメージにしたかったんです。
鰹節は、朝お母さんが味噌汁作るためだけに使うものっていう先入観から離れて、キャンプでも気軽に使える出汁。鰹節は世界各国でも使われているし、料理を楽しむきっかけになれば良いなという気持ちで。
例えばこの商品『ドライボニートソイソースキット(出汁醤油キット)』は、1年に1回しか獲れない宗田カツオの稚魚を使っているんですが、ボトルに市販の醤油を入れておいて、1週間〜10日くらい冷蔵庫で寝かせるとめちゃめちゃ美味い出汁醤油ができます。我ながら良いプロダクトだと思う。
醤油を入れるだけで簡単なんだけど、皆が「これ実は俺が作った醤油なんだよね」って言えるもの。
自分で手を加える楽しさ。難しい料理とかできなくても、そういうことで良いんじゃないかなって。
―公式サイトで拝見したんですけど、相当な拘りでつくられてますね。
実はすごくカッコ良いことをしてるんです。魚市場に足を運んで原料選びから始めて、鰹節は燻製だから建物中、薪で燻す。そこにはキューバみたいな雰囲気の壁があって。燻す木の種類を途中で変えています。
―塩が入ってないのが特徴なんですよね?
通常は鰹節を作る時って、塩水で煮あげたりするんですけど沼津だけは真水。自分で塩分の調節がゼロからできるメリットがあります。塩分を入れることで鰹節の旨みが出るんだけど、最初から塩分のある水で煮るとそこで旨みが逃げてしまう。
拘って料理を作ってる料亭とかだと、最初から付いている塩味が邪魔みたいで。
ソルトフリーはありがたいって言われています。
―他にもいろんな活動をされていると伺いましたが。
他にも、来春に発売する“ゲーミングサプリメント”*のアドバイザーをやっていたり、面白いなと思うことはとりあえずやってみるスタイルです。
※ゲームを愛好する人々のために開発された、集中力の維持や目の疲労軽減、脳の栄養補給などを目的としたサプリメント。海瀬さんはノンカフェインで健康を保ちながら、若年層でも手に取りやすい商品を展開する。
あとは、高校の講師みたいなこともやっています。
男子校なんですけど、友達がそこで先生をやっていて、「豊富な社会経験を生かして、生徒たちの相談役になって欲しい」と頼まれて。
進路について、アドバイスしたり、学生と話をしていくうちに、学園祭をプロデュースすることになり、プロの格闘家を呼んでイベントを盛り上げたり、給料も貰わず自分自身楽しみながら関わっていました。
ただ、コロナ禍ということもあって、去年は活動ができませんでした。
修学旅行も部活の全国大会もなくなって、楽しみを奪われるという意味では学生たちにとって地獄でした。でも、彼らの「最後に湘南っぽいことをしたいっす!」の声に応えたくて。
「湘南乃風」というレゲエグループのBKという友達がいるんですけど、電話をして「ライブしてくれない?」と頼んだら「全然いいよ。俺の子どもも修学旅行なかったからさ。やれることやるよ。」って。
「じゃあ、生徒のみんなと曲を作ろう」って。歌詞はクラスで1フレーズずつ文章を書いて、合体させました。
その曲を体育館で大合唱しました。
湘南乃風もコロナの影響でツアー休止していた中、ファンの方々から職員室に(私たちも観たいと)めちゃめちゃ電話がかかってきて、大変だったけど面白かったです。
―すごくクリエイティブなことをされていますね。
仕事じゃないんですけど、生徒たちと話したり、一緒に悩んだりするのは結構自分自身の活力にもなっています。
来年の文化祭も仕込んでいますよ。生徒に携帯で渾身の一枚撮って来いって言ってます。
誰でも参加できる写真展やろうって。プロカメラマン呼んで、審査して。スマホならみんな持ってるし。
―どれも面白そうですね。
面白そうじゃないとやらないので、面白くしちゃってますね。
9割5分くらいどうにかなると思っているので、難しく考えない。
中にはどうにもならないこともあると思うんですけど。気楽にやろうと。
困ったりした時には、周りにプロフェッショナルな人たちがたくさんいる。いつも助けてもらってますね。
―「ブランディング」という言葉を使っていないけど、されているのはそういうことですよね。
あまり深く考えたことないんですよね(笑)基本的に楽しむこと。
好きなものを形にできている。
人それぞれ幸せは違うと思うし、無理もしたくないし、できることはしたい。やりたいことがあればやれる環境に居たい。
有名になりたいとか、お金持ちになってビル建をてたいとか、そういうことには興味なくて。
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「ブランディング」とか「コンサル」と呼ばれていることを、さらりと素でこなしている海瀬さん。
目の前のことを、より面白くしよう。物事を良くしたい。
それはデザインの本質ではないだろうか。
難しい言葉を使わなくても、伝わることがある(寧ろそのほうが伝わりやすい)。
そして、投げかけたことに二つ返事でOKと言ってくれる仲間がいること。
周囲に人が集まる理由や秘訣は、結局のところ、なんでも全力で楽しんでいるという、彼の“人間力”という言葉に集約されるのだろう。
photo & text :TSUKASA MIKAMI