「クリリンが写真館を始めるらしいよ。」
そんな話が、海辺の街の友人たちの間で広まったのは2020年の夏頃。
湘南界隈では「クリリン」という愛称で馴染んでる佐野竜也さん(以下:クリリン)は、逗子海岸で行われるイベント『逗子海岸映画祭』のシネマキャラバンメンバーで、専属写真家さん。人懐っこいキャラクターも相まって、逗子では顔が広いのです。
その彼のお店に私がおじゃましたのは、年も変わって開店から数ヶ月過ぎたとある日。観音開きのドアをゆっくり押し開けて中を覗くと、ここ『亀甲館写真』の店主となったクリリンが「かおちゃん、久しぶり~」といつもの笑顔で出迎えてくれました。人と会えない時間が長かったせいか嬉しかったな。
元々、50年以上も続いていた老舗の写真館だった場所を同じ業種のまま営業するという条件で引き継ぎ借りたそう。写真スタジオには、撮影用のカメラの機材や照明のほか、譲り受けた年代物のカメラのコレクションが棚に並び、先代の主人のポートレート写真も飾られています。真紅のベルベットのカーテンや受付カウンター、入り口の観音開きのドアは、昔からあったように馴染んでいるけど、店主が自ら改装したところ。
一番の変化は奥にあるバー『チキチータ』。以前、休憩用に使われていた部屋は、カウンターが設置され、お酒のボトルが並ぶバーコーナーに。写真館の営業を終えた19時からの開店です。
今宵は、数人がカウンターに腰かけたり、壁側に立ったり、ビールを片手に気ままに雑談中。
「このパタゴニアビールは、麦芽に加えてカーンザという多年生穀物が使われているのでビールじゃなくて発泡酒になるらしいよ。」と先客に聞いたら飲まなくては!まるいビールグラスに注いでもらって乾杯です。ゴクリ、冬の乾燥した喉にクラフトビールが沁みてゆきます。地元の仲間が作る逗子生まれの『ヨロッコビール』も種類が豊富。ペルー産の豆を挽いて丁寧にハンドドリップしてくれる夜のコーヒーもオススメ。
よく知っている顔に挨拶すると、「今日はここで会社の社員の集合写真を撮影した後だよ」と教えてくれました。
そうそう!本当にオススメしたい体験は、この空間で写真を撮ってもらうこと。
私が着物の着付け係として、何度か七五三の撮影のお手伝いをさせてもらったその撮影現場の楽しいこと。クリリンは、得意なフレンドリーな雰囲気で、撮影前から子どもたちと仲良くなったかと思うと、あの手この手で自然な笑顔をめいっぱい引き出してシャッターを切ってゆきます。その様子を見守る親御さんもつられて笑顔になった家族写真は一生の思い出。
また、ライティングやカメラをセッティングされた状態で自らリモコンを使ってシャッターを切るセルフポートレート撮影もカップルに人気だそう。
この場所で写真を撮ってもらった思い出を嬉しそうに話す逗子の人は多い。クリリンの代になった亀甲館写真のこれからも、そう話す人たちが増えて受け継がれていってほしいな。七五三の撮影で訪れた子どもたちが、成人式や新しい家族と再びやってくる時まで。